睦月|正月

瑞祥新春。祝いに寄せて
ひときわ贅沢な椀を配す

端正な献立に〝年明けうどん〟の遊び心で初笑い

「御椀」は日本料理の華、メインディッシュだと、よくいわれます。

当店でも、おのずと力が入る、一番勝負をしている部分。もちろんコースの料理のひとつですから、他とのバランスや流れをみながらその内容を決めますが、例年この時期にお出しする、ずわい蟹真丈(しんじょう)の御椀は、ひときわ贅沢だと思います。12か月、どの料理にもそれぞれ気を使うとはいえ、年の始まりの食事というのはやはり、少し特別感があります。

椀種(わんだね)は、ほぐした蟹とすり身を合わせて茶巾にとったもの。椀に盛り、ずわい蟹の身と、焼いたのし餅を乗せ、熱々の吸い地を張って完成。彩りには、京の伝統野菜の鶯菜(うぐいすな)、そして橙(だいだい)の結びと岩茸、金箔を飾り、正月らしい豪華なひと椀です。

余談ですが、橙の結びは、実のところもう少し細いほうが、作業は手っ取り早くできます。太くすると少し撚(よ)れて問題が出やすいのですが、でも、この太さでないと迫力が出ない。この差は伝わることではないかも知れませんが、お客様の想像以上の仕事をしたい、感動していただきたいと考え重要視しています。橙の作業は一例にすぎませんが、こうした方が盛りやすいとか、やりやすいみたいな、自分の都合で仕事をすると高みは望めないと、その視点は常に戒めとしてあります。

余談ついでに、もうひとつ。強肴の「くえ鍋」は、出汁がとてもおいしいので、ほんの一口分ですが、締めのうどんを付けます。
その際、「年明けうどん、僕が勝手に言うてます」とお伝えしますが、実はこれには原典があります。

以前、大阪のとある駅の立ち食いそば屋で、「年明けうどん、どうぞ」との貼り紙を見かけ、なるほど! と。蕎麦は関東のイメージも強いし、年越し蕎麦に対抗してとは、面白いことを考えはるなぁと思い、あやかった次第です。正月の少し堅苦しいところに、ちょっとクスッと笑える感じ。お客様はどう感じておられるか、いささか心配ですが()、そういうのも結構、好きなんです。

令和六年 睦月の献立

座付  白味噌仕立て 結び人参 大根
食前酒 祝い酒
先附  鯛と千枚漬け博多押し 干し数の子
御椀  ずわい蟹真丈 焼餅
御造り ふぐ糸造り白子和え よこわ炙りオランダ辛子
八寸  車海老塩うに 吉兆玉子 くわい餅キャビア 黒豆 このわたなまこあん肝蒸煮 いくら
強肴  くえ鍋 年明けうどん
焼物  鴨ろーす炙り 堀川ごぼう白扇揚げ しば漬けおろし酢
止肴  蕪蒸し
食事  ふぐ雑炊 香の物
果物  苺ワインゼリー寄せ
御菓子 雪見薯蕷

一年のはじまり。正月は1月の別称で、「正」の文字には「改める、改まる」という意味がある。清々しい気持ちで、歳神を迎えるための依り代(よりしろ)として用意するのが門松。京都では、松竹梅を使った華やかなものではなく、〝根引(ねびき)の松〟を門口に飾るところも多い。根のついた若松を和紙で包んで紅白の水引をかけた門松の原型で、平安時代の宮中行事に由来するともいわれる。向かって右側が雄松、左側が雌松で一対。根のついたままの姿から、商売などが「しっかりと根付くように」「ますます成長し続けるように」との願いが込められている。

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京都の松の内が明ける115日まで、研覃ほりべも正月らしい設えでお客さまを迎える。玄関に幔幕を張り、「瑞祥」の書き初め、根引きの松を飾る。そして、普段から季節に合わせた小物をそっと置いているカウンター奥の飾り棚には、「振振(ぶりぶり)」の香合を。振振は八角形の槌(つち)を模した玩具で、もとは宮中の子どもらが遊んでいたとか。江戸時代以降には、鶴·亀、尉·姥などのめでたい図柄を描いた振振を意匠とした豪華な器が飾り物·贈り物になったという。正月の初釜に好んで使われる香合で、いささか不思議なかたちも含めて魅力的な茶道具である。