文月|祇園祭

七夕の五色糸から連想。
五味の取り合わせで遊ぶ

祇園祭の献立は、さわやかな〝邪払(じゃばら)〟から

研覃ほりべが店を構えるあたりは祇園祭の山鉾町が多くあり、近くには「霰天神山(あられてんじんやま)」が立ちます。ご利益は、雷除け・火除け。永正年間、京都に大火が起こった折に、季節外れの霰が降って猛火がおさまり、霰とともに小さな天神像が降りてきたのを祀ったのがこちらの起源だとか。日本三大祭のひとつとして広く知られる祇園祭の山鉾町で日常を過ごしているのですから、使命とまで言うと大層かもしれませんが、お客さまに京都のことを知ってもらいたいとの思いが常より増します。

ここ数年、七月の食前酒はじゃばらという柑橘を使ったリキュールの水割りを、ガラスの器に注いで提供しています。独特の酸味、苦みがさわやかで夏場にぴったりだというのもありますが、じゃばらは〝邪払〟つまり、邪(気)を払うという意味で名付けられた縁起物の食材で、祇園祭の〝祓え〟にもつながるというのが大きな理由です。

今回の御凌ぎも然り。祇園囃子をイメージし、小鼓を模した高台の器に乗せています。ちまきは、研覃ほりべの文月の献立に欠かせない趣向ですが、ときには五月の節句のものと思っていらっしゃる方もあるので、祇園祭との関連を要約してお話しすることもあります。今年は、酢でしめた魚と刻んだしば漬けを笹で包み、さらりと一口か二口で召し上がれるちまき寿司に。余談ですが魚の上には白板昆布を乗せ、笹の葉と寿司がくっつかないように工夫しています。ナイフやフォークを使わない日本料理では、こうした食べやすさの配慮も大切だと考えるからです。

七月といえば、もうひとつ忘れてはならない行事が七夕。八寸は、涼やかな青竹に盛り込み、金銀砂子(きんぎんすなご)の笹と、五色の糸をあしらいます。料理も、青(緑)の枝豆かき揚、赤は山桃、黄は吉兆玉子、白は鱧の子塩辛、黒は岩茸胡麻和とし(七寸の竹に少しスペースが余るため、うなぎの一品を足しました)、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の五味と五色を意識した取り合わせが完成。我ながらなかなか良い流れの献立ができたのではないかと感じています。

令和五年 文月の献立

食前酒 じゃばら酒
先附  もろこしすり流し 淡路雲丹 葛切り 釣瓶盛り込み
御凌  鱚ちまき寿司 蘇民将来子孫也 芽生姜がり
御椀  赤穂鯛 叩きおくら 雑葉
御造り 明石鱧落とし 活たこ 琵琶鱒炙り あしらい一式
八寸  岩茸胡麻和 うなぎ八幡巻き 枝豆かき揚 山桃 吉兆玉子 鱧の子塩辛
焼物  琵琶湖鮎塩焼き 魚籠かご盛り込み
強肴  岩かき白扇揚げ煎り出汁 賀茂茄子
止肴  冷やし鰊蕎麦 氷鉢盛り込み
食事  銀シャリ 和牛と新生姜時雨 香の物
果物  桃ジュース 巣立とシャンパンシャーベット
御菓子 水まんじゅう

千年以上の歴史を持つ祇園祭は、京都の人々に「祇園さん」とも呼ばれ、親しまれてきた八坂(やさか)神社の祭礼。平安時代に、都を襲った疫病が鎮まるようにとの祈りを込めて始まったという。いまも7月1日の「吉符入り(きっぷいり)」を皮切りに、1か月にわたって多彩な祭事が行われる。なかでも、〝動く美術館〟とも称される山鉾巡行と勇壮な神輿渡御(みこしとぎょ)は祇園祭のハイライト。全国各地から多くの見物人が集まり、まちは熱気に包まれる。コンコンチキチン、コンチキチンとの祇園囃子の音とともに、京都の暑い夏が始まる。

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祇園祭で授与される粽(ちまき)には〝蘇民将来子孫也(そみんしょうらいしそんなり)〟と記した護符が添えられることが多い。蘇民将来は人の名。祇園祭の締めくくりとなる、7月31日の「夏越祭(なごしさい)」の神事が行われる疫(えき)神社に、まつられている。蘇民将来は貧しいながらも、八坂神社の祭神・素戔嗚尊(すさのおのみこと)を手厚くもてなし、それを喜んだ素戔嗚尊から茅の輪を与えられ、子孫が疫病から免れることが約束されたとの言い伝えがある。研覃ほりべでは、今月用意した御凌ぎの笹巻きの寿司に添える短冊にも同様の文言をしたためた。