如月|立春大吉

福を呑む。
鬼も潜む、遊び心を味わう

吹雪仕立てに春の芽吹き

二月の京都は、まだまだ冬の底冷えが残っています。寒さに追われるように急ぎ足でお店に入ってこられるお客さまから冷気を含んだ上着を預かり、着席なさったら、先ずは温かなとろろの汁物をお出しします。そして、落ち着いた頃合いに食前酒を。福杯に、香り高く爽やかな口当たりの吟醸酒を注ぎます。美味しいお酒で、春の到来を祝うと共に、〝福を呑み、鬼を喰らう〟一連の料理の幕開けです。

先附の節分枡盛り込みに次ぐ、御凌(おしのぎ)には如月らしく恵方巻とお稲荷さん。最近は馴染みのない方も多いようですが、お稲荷さんは初午(はつうま)に欠かせない食べ物です。二月に行われる伏見稲荷大社の初午大祭は福詣りとも呼ばれ、商売繁昌と家内安全を祈る人々で賑わいます。

春告鳥との別名を持つウグイスを描いた、鶯宿梅(おうしゅくばい)蒔絵の椀を満たすのは蕪のすり流し。大根おろしをみぞれと呼ぶように、蕪をおろしたものを吹雪に見立てることがあります。てっぺんにフキノトウをあしらい、雪の中から緑が芽吹くイメージで仕上げました。

椀種(わんだね)は、寒さで甘みが増した蓮根をすりおろして練り上げ、さっと油で揚げた蓮餅。そして、その上に乗せる葛たたきにした魚は、鬼おこぜです。また、実は蕪の下ごしらえには、おろし金の目が粗めな鬼おろしという道具を使っています。この後に続く料理にも、福と鬼が、そこかしこに顔をのぞかせる仕掛け。こうした遊びを分かってもらえる余裕が、ここ京都には、おおいにあるように思います。

令和五年 如月の献立

座附  薯蕷(じょうよ)汁
食前酒 福盃
先附  わさび花 雲丹 平貝 酢じゅれ 節分枡盛り込み
御凌  自家製からすみ恵方巻 お稲荷さん
御椀  おこぜ 蓮餅 吹雪仕立て
御造り 平目昆布 赤貝 針いか あしらい一式
八寸  蒸し蟹・お多福豆・赤貝酢味噌・このわたなまこ 福寄せ盛り込み
焼物  天然活もろこ炙り
強肴  蛤鍋 自家製魚そうめん
止肴  鶉つくね 淀大根 九条ねぎ
食事  ふく雑炊
果物  苺ワインゼリー寄せ
御菓子 自家製酒饅頭

節分の豆撒きの起源は、平安時代に宮中で行われていた「追儺(ついな)」だという。旧暦の大晦日にあたる立春の前日、人間に災厄をもたらす鬼を払い、新しい年を迎える儀式である。いまも、吉田神社の節分祭、壬生寺の節分会に多くの参拝客が訪れ、春の到来を悦ぶなど、京都には宮中行事の名残が色濃く残る。

〈写真〉先附、節分枡盛り込み。柊があしらわれた折の蓋を取ると、中にはわさび花、雲丹、タイラギ貝といった酒肴が目にも鮮やかに春を感じさせる。