師走|大歳の大祓い

矢羽根の皿に乗せる思い
時がつくりだす味わい

ゆず釜石焼、蕪蒸し、月鍋。芯から温もる料理を中心に

比叡颪(おろし)が吹き込み、底冷えする京都。本格的な冬になると献立は、温かな料理が大半を占めるようになります。

12月の先附は、香りのよい柚子をくり抜き、器に見立てたゆず釜を使った一品を用意しました。とろりとした薯蕷(じょうよ)芋の汁と雲丹を入れて熱々の石焼きにし、クツクツと煮立ったところで上からお酒をかけ、湯気がブワーッと立つ… そんな演出を楽しみながら、蓋を開けて食べていただく仕掛けです。

続く御椀は「蕪蒸し」。今回は餡掛けにせず、少しだけ葛をひいた吸い物に。聖護院蕪の独特な甘みと、ぐじのうまみがあいまって、しみじみとおいしく、もち米で炊いた銀杏の、何ともいえないムチッとした食感も良いアクセントになっています。

体を芯から温めてくれる料理が続いたところで、御造と八寸をお出しします。

「大歳の大祓」として、神事ごとを意識して器などを取り揃えました。紙垂(しで)とからすみを松葉串で留め、榊(さかき)をあしらい、神さまへのお供えのお下がりを召し上がっていただくイメージです。

もうひとつ、年の瀬らしさを演出するのに、「光陰矢の如し」を思わせる矢羽根の皿を使っています。月日の過ぎるのは、飛ぶ矢のように早いことを例えることわざとして知られていますが、だからこそ、油断せず日々、やるべきことに集中するのが大切と、言外に説いているといいます。

たとえばこの八寸ひとつにしろ、完成するまで、とにかく時間がかかります。

なまこは壺に番茶を入れたところに漬けます。これは昔ながらの仕事で、一晩置いて戻すと、驚くほど柔らかく仕上がります。さらにそれを地漬けにして薄く味を乗せ、このわたと和える、くわいせんべいは低温でじっくりと揚げ、一つひとつ松葉に刺す、など。でも、当然ですが、おざなりにはできません。

今月は月半ばにはおせちの仕込みも始まり、いつもにも増して過酷で慌ただしい時期。例年24日には営業を仕舞いますし、献立の提供期間も短く、本当に師走は一瞬のように感じます。だからこそ、「光陰矢の如し」の言葉の先を胸に、日々、良い仕事をしたいと考えます。

 

令和五年 師走の献立

食前酒
先附  雲丹ゆず釜石焼
御椀  ぐじ蕪蒸し仕立て
御造り 雪笹盛り込み 天然ぶり 車海老 天然平目 あおりいか あしらい一式
八寸  光陰矢の如し せこ蟹りんご酢 青身大根もろみ くわいせんべい からすみ このわたなまこ くもこちり酢
焼物  くえ炙り 九条ねぎ くえ煮凝り
強肴  月鍋(くま鍋) 根せり 自家製手打ち蕎麦
止肴  煮穴子 海老芋 こも豆腐 菊菜 焚き合わせ
食事  湯葉ちりめん 香の物
果物  季節の果物 巣立とシャンパンシャーベット
御菓子 自家製雪見薯蕷

京都の師走の風物詩のひとつが「南座」の顔見世。11月の終わりに縁起物の墨書きの看板「まねき」がずらりと掲げられ、12月に興行が始まると、街には年の瀬らしい活気が満ちる。127日・8日に営まれる「千本釈迦堂」の大根焚き(だいこだき)も、京の師走の伝統行事。釈迦が悟りを開いたことを祝い、鎌倉時代に始まったとされ、加持祈祷した後に大鍋で煮込んだ聖護院大根が参拝者にふるまわれる。無病息災のご利益があるとされ、これにならって、大根を炊いたものが家庭の食卓に上ることも多い。

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茶道では、〝送り干支〟といい、12月の茶会にその年の干支の茶道具を使い、改めて感謝の気持ちをこめて一年を振り返る習わしがある。研覃ほりべも、それをふまえて師走の玄関を飾る。玄関の扉を開け、三和土を進んだ正面に掛けているのは辰(たつ)の面。令和6年、つまり来年の〝迎え干支〟である。そして、〝送り干支〟の卯(う)の面はというと、食事を終えた人が外へ出る際に少し見上げた視線の先あたり、辰と向かい合わせの場所にある。帰る間際ともあって、気付かれることは多くないとしても、行く年の名残を惜しむ設えとして恒例となっている。